エスプレッソマシンの歴史その2

● 研究、開発はさらに進み、エスプレッソマシーンの原型誕生?

コーヒーの抽出速度を上げるために様々な機械が考案された中で、蒸気圧を利用してお湯を押し出しコーヒーの粉を通す方法についても19世紀半ばから試みがなされていたようですが、これを改良、洗練させたのはイタリア人でした。

 

1901年、ミラノのベゼラ(Luigi Bezzera)氏が蒸気圧を利用した業務用機械の特許を初めて取得しました。

 

1906年にミラノで開催された博覧会でベゼラ氏の機械によるコーヒーが提供されている写真が残されていますが、その看板には「CAFFE ESPRESSO」と大書されており、ベゼラ氏がこのコーヒーをエスプレッソと呼んでいたことが分かります。

 

 

ベゼラ氏の機械の最大の特徴は、デサンテの機械のようにポット単位でコーヒーを抽出するものとは異なり、コーヒーの粉を詰めるフィルターホルダーから抽 出された1杯又は複数杯のコーヒーを直接カップに注ぐというものでした。取っ手付きのフィルターホルダー及び抽出をコントロールするバルブという組み合わせは現在のエスプレッソ・マシンにも踏襲されています。

 

1903年にこの特許の使用権を得たパボーニ(Desiderio Pavoni)氏は、1905年に商業ベースでの機械製造を開始しました。客の求めに応じて一杯ずつ濃厚なコーヒーを抽出するパボーニ社の機械は、やはり 客の求めに応じて一杯ずつ煮出す方式のトルココーヒーに馴染んだイタリアのカフェを中心に好評を博し、他の業者もこれに追随しました。

 

1920年代には、 トップに社章の飾りを配した真鍮ないし銅のタワー式機械が、欧州のカフェの一般的な風景になってきました。

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●「特別に、あなたのために」を意味するという説も充分あります

 

ベゼラ氏が自らの考案した機械により抽出される コーヒーをカフェ・エスプレッソ(エスプレッソ・コーヒー)と称していたことは記録に残っていますが、カフェ・エスプレッソという単語を歴史上誰が初めて 使用したのかははっきりしていません。

 

これまでも紹介してきたように、人々は何もエスプレッソを作ろうと努力してきた訳ではなく、コーヒーの新たな抽出方法を求めて試行錯誤してきた結果、ある時点で、その成果物がエスプレッソと呼ばれるようになったのでしょう。

 

そのため、エスプレッソという単語の語源についても「急行、急速」を意味するという説と「特別に、あなたのために」を意味するという説に分かれていま す。

 

 

 

日本ではもっぱら「急行、急速」を意味するという説明のみがなされるのが普通ですが、もしかしたら単に「特別に、あなたのために」を意味するという説 が何を意味しているのか理解されていないだけではないでしょうか。

 

日本の学校では express という英単語には「表現する」という意味(動詞)と「急行」という意味(名詞)があるように習い、私も二つの全く異なる意味を持つ単語であるかのように覚えていましたが、改めて手元の英和辞典を開いてみると、express という単語には「特に明示した」あるいは「特殊な」という意味(形容詞)があり、expressly というと「特別に」あるいは「わざわざ」という意味(副詞)があります。

 

そこで coffee expressly for you(あなたのためにいれたコーヒー)が語源だというのが「特別に、あなたのために」を意味するという説です。

(便宜上英単語で説明しましたが、フランス語・イタリア語でも事情は同様です。)

 

 

1901年にベゼラが考案し、1905年にパボーニが世に送り出した機械は、客の求めに応じて一杯ずつコーヒーを抽出する方式で一世を風靡しました。そ の意味では、エスプレッソの語源が「特別に、あなたのために」を意味するという説には十分な根拠があります。

 

 

しかし、カフェ・エスプレッソという単語が「急行、急速」のニュアンスとともに普及していったのも事実です。例えばイタリアの Victoria Arduino 社が1922年に作成した有名なポスターには、「LA "VICTORIA ARDUINO" PER CAFFE ESPRESSO(カフェ・エスプレッソには Victoria Arduino を)」という宣伝文句とともに、蒸気機関車の客車デッキから身を乗り出した乗客が同社の機械から抽出されるコーヒーに手を伸ばしている絵が描かれていま す。

 

 

このポスターは、カフェ・エスプレッソという単語が当時既に一般的になっていたことを示すと同時に、蒸気機関車のイメージを同社のエスプレッソ・マシ ンのイメージを重ね合わせてアピールしている様子がうかがえます。